私は「美の壷ならブルーノート録音でしょう」と申し上げてレコードを見ていただいたのですが「違う」とおっしゃるので、「その頃のイメージならプレスティッジ録音かもしれませんね」と申し上げてマラソン・セッション4部作のLPを見ていただいたところ「確か、こんなタイトルでした」ということで示されたのがWorkin'というLPの「It Never Entered My Mind」でした。
M.Davisの数あるアルバムのなかでも、このレコードのジャケットは最低だと、私は思っています。
「金に困って道路工事のアルバイトをしている最中、やっと休憩時間になった。昼メシも食ったし、食後の一服はやっぱりうまいなア」なんて勝手に想像させるようなジャケットのように見えませんか。
しかもこのアルバムでは、The Themeが2回も録音されている、これはA面・B面と別々に聞くことを想定した、LPだからこそできた曲の構成ではないでしょうか。
という理由で、私もほとんど聞くことがなかったアルバムでした。

このご婦人のリクエストにお応えして久しぶりにこのアルバムをかけてみたところ、M.Davisも素晴らしいが、メンバーのレッド・ガーランドのピアノがとても新鮮なんですね。R.Garlandがサイドメンとして参加したなかでもベストと思える演奏です。
こんなアルバムもあったのかと、気持ちを新たにするとともに、M.Davisのことならたいていのことを知っているつもりでおりましたが、まだまだ発見することがあるんだということをお客様から教えられた一日でした。